Pro Tools HD Native、低レーテンシーモニタリングの技術解説
Pro Tools|HD Nativeが登場して早いもので半年が経ちました。Pro Tools|HD Nativeのリリース時に低レイテンシーの仕組みに関して簡単な解説を当ブログで行いましたが、今回はよりテクニカルなサイドに立って詳しく解説してみましょう。
Pro Tools|HD Nativeのレイテンシーと一般的なUSBやFireWireを使用したインターフェイスとでは、レイテンシーに関してどのような違いがあるのでしょう?
上記のような疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はその違いを説明してみます。
ホストCPUプロセッシング・レイテンシーの詳細
I/Oレイテンシーはオーディオデータの塊(バッファー)の移動によって引き起こされます
上図はPCIeカードを使用したPro Tools|HD NativeとUSBやFireWireを使用したMboxシリーズインターフェイスのバッファーの違いを図解したものです。(48khz時)
皆さんご存じのようにレイテンシーはコンピューターがオーディオデータを処理する際に発生する、データの遅れのことです。ProTools HD TDMシステムのように専用のDSPを持たないDAWでは一般的にそのオーディオの処理はCPUを使用することになります。CPUベースのシステムではそのオーディオの処理時にデータを途切れさせることなく、また、CPUのパフォーマンスに支障をきたすことなく処理させるために、ある一定の塊(チャンク、ブロック)毎に処理をさせるという方法が一般的に行われています。
つまりある一定の塊(チャンク、ブロック)を処理するための受け皿というのがバッファーということになります。
上図では一番左の列の上がPCIe(Pro Tools|HD Native)でその下がUSBやFireWireインターフェイスのMboxです。
上図の白地に青枠で囲ってあるボックスの左から順に解説していきましょう。
A/D and D/A converters:
A/D、D/Aコンバーターで信号の変換時に発生するレイテンシー(アナログ信号をデジタルに変換する際や、その逆にデジタル信号をアナログに変換する際に発生する処理時間=レイテンシー)、ですが、Pro Tools|HD Nativeで使用するHD I/OやOMNI I/Oは最新の高性能DA/ADコンバーターテクノロジーを採用することによってそのレイテンシーもMboxの、それよりも更に短いレイテンシーを実現しています。
Hardware buffer size:
ProToolsの設定メニューのプレイバックエンジンで設定するバッファーのことで、これはProToolsがオーディオデータを一度に処理するバッファー・サイズをユーザー側で任意の値に変えることができるようになっています。インターフェイスによってそのサイズは異なっていますが、Pro Tools|HD Nativeの場合、最小32サンプルから、64,128,256,512,1024のようにバッファー値を上げていくことができます。またMboxの場合は最小64,128.256.1024・・のようにバッファー値を上げていくことができます。ということで、Pro Tools|HD NativeはMboxと比較してより最小のバッファー値を設定することができます。
参考情報:このバッファー値を上げれば上げるほど、レイテンシーは上がることになります。ですが逆にお使いのCPUが高速で無い場合には、このバッファー値を上げないとプラグインを大量にインサートできなかったり、オーディオの再生時にCPUの処理が間に合わない為にノイズが発生する可能性があります。このような場合にはレイテンシーを犠牲にしてもプレイバックバッファーを上げることで、このような問題や症状を改善することができます。逆に高速なCPUをお持ちの方、もしくはレコーディングしているセッションにあまりプラグインが使用されていない場合には、このバッファー値を下げることで、レイテンシーを下げることができます。ということでこのバッファー値はお客様のCPUのスペックや使用されているセッションの状態に合わせてバランスのとれた適切な値を入力する必要があります。
Protocol-specific buffers:
これはオーディオ・データをCPUのデータバス上に流すための、プロトコルに特有のバッファーです。 コンピュータのメインボードのデザインによって、これらのバッファー値は少し変わります。また、この値はUSBとFireWireの場合PCIeよりも大きなバッファー値が必要になります。
Driver “safety” buffers:
連続したデータ移動を確実にするために、ドライバー開発者がドライバーソフトを安全に動作させるために付け加える“隠された”バッファーです。通常PCIx/PCIeでは必要とされませんが、FireWireとUSBでは間違いなく必要になります。
まとめ
上記をご覧いただくとおわかりのように、Pro Tools|HD Nativeの場合、USBやFireWireプロトコルを使用する場合と違い、仕様上、システム全体のバッファーが少なくてすむというメリットがあります。また、世界の音楽スタジオで使用されているのと同じ最新で低レイテンシーなI/OであるHD I/OやOMNI I/Oを使用することができるメリットもあります。したがって、レイテンシーやコスト面を考慮しながら使用するシステムを検討されているクリエイターの方々には、Pro Tools|HD Nativeは最適なネイティブシステムといえます。
最後に、HD Nativeでも実行できるローレイテンシー・モード(LLM: Low Latency Mode)についても少し見ていきましょう。
ローレイテンシー・モード(LLM: Low Latency Mode)について
HD Nativeでは、96 kHz 64 sample buffer時にHD I/OもしくはOMNI I/Oを使用した場合のAD/DAを通したレイテンシーは1.8msです。この状態では、RTASプラグインを含むPro Tools HD Softwareの全機能が使用可能です。
一方、ローレイテンシー・モード(LLM: Low Latency Mode)を使用した場合の、レイテンシーは1.1msとなりますので、LLMにすることで最短のレイテンシーでボーカルダビングやギター・オーバーダブ作業を行うことができます。
ローレイテンシー・モードをイネーブルにし、 レコード・イネーブルまたはインプット・イネーブルがオンとなっている場合、Auxセンドまたはダイレクト出力を使って、このLLMパスへルーティングされたトラックは、Pro Tools HD Softwareミキサーを通さずに、ハードウェアから直接モニターすることができる為、モニター遅延を感じず作業していくことが可能です。
また、Pro Tools HD NativeのLLMモードは、HD Native PCIe上に搭載されたI/Oハンドリング機能を使い、他のホストベース・システムのLLEモードが2~8チャンネル程度までの同時使用に止まるのに対して、最大64チャンネル同時にLLEモードの状態で録音することも可能となります(勿論、物理的なI/Oはその数の分必要となります)。
これがPro Tools HD Nativeが、ホストベース・システムでありながらも、バンド・レコーディングなどにも適している大きな理由の一つです。
但し、Pro Tools HD Softwareミキサー機能を利用しない為、そのチャンネル上のすべてのプラグインのインサートやセンドは、バイパス設定となり実行することはできません。 LLMモードを利用する場合は、外部にコンプレッサーやEQなどを用意し、そこである程度のサウンドメイクをした上で録音する方法が現実的になると思います。
通常の録音モードでレコーディングするか、このLLMモードでレコーディングするかは、用途、使用する機種のCPUパワー、レコーディング規模などでも異なると思いますが、この使い分けができる柔軟性もPro Tools HD Nativeの大きな魅力となっています。














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