伊東たけし氏 × sibeliuski 対談ブログシリーズ#2
伊東たけし氏 「音符が五線の上を流れる映像から、新しいアイディアが浮かぶこともある」
お待たせしました。わたくしsibeliuskiが、Sibeliusの使い手たちにお話を訊くユーザー・インタビュー、第2回目です。今回ご登場いただくのは、日本を代表するサックス・プレーヤー、伊東たけしさん。あえて説明するまでもありませんね。あのT-SQUAREのメンバーであり、日本におけるウインド・シンセサイザーの第一人者でもあります。そんな伊東さんは、日本に入ってきた最初のバージョンから使っているというヘヴィなSibeliusユーザー。その出会いから使いこなし、DAWソフトとの使い分けまで、いろいろなお話を訊いてきました。それではお楽しみください!
コンピューターを使った楽譜作成は20年以上やっていて 、8年前に偶然Sibeliusに出会った
sibeliuski 伊東さんとSibeliusとの出会いは?
伊東さん 8年くらい前、今はなき渋谷のヤマハで、日本に入ってきた最初のバージョンをたまたま見つけたんだよね。まだ日本語化されていなくて、英語版だったんだけど、これは何か良さそうだなと。たぶん、日本で最初に使い始めたユーザーの一人じゃないかな。
sibeliuski それまでは他の譜面作成ソフトを使われていたのですか?
伊東さん うん。でも歴史のあるソフトなので、バージョンが上がるごとに機能が追加されていった結果、どんどん使いづらくなってしまって。昔に比べて動作が重くなって、操作も複雑になっちゃったんだよね。そのことは開発側も承知していたようで、途中で一回シンプルにしたりするんだけど、それでもちょっと苦しい感じで(笑)。 そんなときに出会ったのがSibeliusで、さっそく試してみたら、とにかく動作が軽いのに驚いた。あとは操作性。とても自然な使い心地というか、まるでペンを持って五線紙に向かうような感覚で譜面を起こすことができたんだよね。もちろん、初期のバージョンは機能的に物足りない部分もあったんだけど、それを補って余りあるほど操作性が良かったので、それ以降ずっとSibeliusを使ってるよ。
sibeliuski 英語版は使いにくくはなかったですか?
伊東さん ぜんぜん(笑)。僕は歌詞は入れないし、それに当時は海外のプレイヤーと仕事をすることも多かったから、英語版の方が都合が良かった。こういうソフトって、英語でメニューやコマンドを覚えた方が、海外のミュージシャンと言葉を共有できるからいいんだよね。最近、音楽制作系のソフトはほとんど日本語化されたみたいだけど、海外のプレイヤーやアーティストとやり取りすることを考えると、英語版のままにしておいた方がいいんじゃないかと思うけど(笑)。
sibeliuski そんな伊東さんのような方のために、Sibeliusはバージョン6.2でマルチ・ランゲージ対応になったんですよ! 環境設定で好みの言語を自由に選ぶことができるんです。
伊東さん お、それは知らなかった。今はOSがマルチ・ランゲージ仕様なんだから、そうじゃないとダメだよね。
sibeliuski Sibelius以前は他の譜面作成ソフトを使われていたとのことですが、コンピューターを使った楽譜の作成はかなり以前から行われていたのですか?
伊東さん 僕はかなり古いよ。MacのSE/30って機種知ってる?
sibeliuski すみません、知りません……(汗)。
伊東さん SE/30は、80年代に発売されたMacの名機だよ。僕はMacが大好きだったから、SE/30という凄い機種が出るという話を聞いて、すぐに注文したわけ。そのとき僕はたまたまアメリカにいたんだけど、SE/30を届けてくれたディーラーが譜面作成ソフトのことをおしえてくれたんだよね。「お客さん知ってます? コンピューターで楽譜を作れる凄いソフトが出たんですよ」って。新しモノ好きの僕としては、そんな夢のような話を聞いて飛びつかない訳はないでしょ(笑)。だからコンピューターを使った楽譜の作成は、もう20年以上やっていることになるよね。
sibeliuski 当時の譜面作成ソフトは、どのようなものだったんですか?
伊東さん メチャクチャ頭の良い大学生が開発したモノで、画期的ではあったんだけど、もの凄く使いづらかった(笑)。まぁ、最初だから仕方ないけどね。一番頭を悩ませたのはプリンターのドライバーかな。印刷できなきゃしょうがないということで、高価でデカいプリンターも一緒に買ったんだけど、ドライバーが悪さをして、なかなか上手く動かなくて。画面上ではきれいに表示されているんだけど、印刷すると変な位置になっちゃったりとか。当時はPDFなんてファイル・フォーマットも無いからね。でも最初に印刷したときは嬉しかったなぁ。アメリカから戻ってすぐに苗場でユーミンのコンサートがあったんだけど、買ったばかりのSE/30とプリンターをホテルの部屋に持ち込んで、ゲレンデを見ながら一生懸命打ち込んだ記憶があるよ(笑)。
sibeliuski 凄い! 伊東さんはコンピューターがお好きなんですね。
伊東さん もう大好き。Macは最初の機種から使っているしね。途中、カッコ悪くなったときは離れたけど(笑)、最新機種が出る度に買ってる。その中でもSE/30というのは思い入れのある機種だったなぁ。譜面作成ソフトを初めて使ったMacということも含めて。でも当時、シーケンサーに関してはMacを使わず、専用機を使ってたね。
音符だと見えてくるものがある
その映像からまた別のアイディアが浮かんだりとかSibeliusに出会った
sibeliuski 伊東さんは、楽譜というものには十代の頃から慣れ親しんでいたんですか?
伊東さん 学生時代、ビックバンドをやっていたんだけど、新入生のときって楽譜を大量に書かされるんだよ。合宿とかで徹夜しながら、意味も分からずひたすら楽譜を書かされる(笑)。そうすると眠くて、4/4拍子の曲なのに音符が半拍足りなかったりとか(笑)、凄いミスをするんだけど、そんな毎日でかなり楽譜とは親しくなったね。
sibeliuski 伊東さんの作曲の方法についておしえてください。
伊東さん みんな同じだと思うけど、良いメロディーやベースのラインが頭に浮かんだら、それを五線譜に書くのが基本だよね。手元に五線譜が無かったら、紙に5本線を書いて(笑)。あ、最近だとiPhoneのボイスメモに吹き込んでおくというパターンも多い。口で吹き込んでおくと、メロディーだけでなくドラム・パターンなんかも残しておけるから。「ドッドッ、タン、ドッドッ、ターン」って(笑)。そんないいかげんな感じで吹き込んでおいても、後で聴くとそのときのイメージがちゃんと蘇るんだよね。iPhoneがイイのは、スピーカーを内蔵しているところ。そういうメモがわりに使うレコーダーは、すぐに聴けるものじゃないとダメだよ。
そんな感じで、どんな些細なアイディアでもとりあえず記録しておいて、僕の場合はそれを一服しているときなんかにまとめて聴くんだ。それで「これはイケる」と感じたものを、もっと膨らませていくという感じかな。
sibeliuski その後はSibeliusを立ち上げて?
伊東さん そうだね。最近だとT-SQUAREのアルバム用に4曲書いたんだけど、そのときはシンプルなドラム・パターンを鳴らしながら、最初にピアノの和音を入れて、ベース・ラインを入れて。そしてドラムを入れ直して、最後にラインをサックスで入れて……という感じ。全部Sibeliusだけでやったので、音的には殺風景な感じなんだけど、楽曲のイメージとかメロディーがどんな感じかとかはじゅうぶん分かる。そのアルバムの曲作りは、Sibeliusにかなり助けられたね。
sibeliuski そうやって作られた譜面は、プリント・アウトしてメンバーに渡されるんですか?
伊東さん その辺はやり方がいろいろあって、1曲は音で聴かせたかな……。DAWソフトに移して、ちゃんと打ち込み直したものもあるね。
sibeliuski DAWソフトに向かって作曲することもあるんですか?
伊東さん 僕は音符が見えないとダメなんだよね。DAWソフトだと音符が見えないでしょ? それに僕の場合は、音符から見えてくるものがあったりするんだ。譜面の上を音符が流れていく、その映像からまた別のアイディアが浮かんだりとか。もちろん、過去にはシーケンサーに向かって作曲したこともあるんだよ。でも、余計なことに気を取られちゃうんだよね。ピアノのフレーズのタイミングとか(笑)。僕はキーボーディストじゃないのでイメージどおりに弾けないから、入力した後でこの音符を後ろにずらして……とかやり始めちゃうわけですよ。そんなことをやり始めちゃうと、当初のイメージが薄れてしまう。そういう余計なことに気を取られずに作曲するには、iPhoneのボイスメモを使って、口で吹き込んでしまうのが一番だね(笑)。
sibeliuski しかし自分でちゃんと打ち込みたいときはDAWソフトを立ち上げると……。
伊東さん そうだね。DAWソフトは、Pro ToolsとLogicを使ってる。Logicは昔から使っていて、あの濁ったような味わいのある音が大好きだったりするんだけど、最近はPro ToolsのMIDI機能が充実したのでそっちでやることも多いよ。Pro Toolsはとてもクリアな音で、Logicとはまったく違う。Logicは、昔のENSONIQ系というかアナログ・チックなサウンドで、ハイファイとは真逆な音だから(笑)。自宅のコンピューターはiMacで、オーディオ・インターフェースはApogeeのEnsemble。昔はPower Mac G5とかも使っていたんだけど、今はiMacでもパワー的には十分だね。
Sibeliusは凄く魅力的なソフト
使っているうちに愛着が湧いてくる
sibeliuski Sibeliusの入力方法についておしえてください。
伊東さん ちゃんとMIDIキーボードがある場所ではなく、こういうところ(註:このインタビューは、東京・目黒のMARUNI STUDIOのロビーで行われました)で作業することが多いから、アルファベット入力を使うことが多いね。〆切に追われているときは、新幹線の中で作業することもあるし……。もう(コンピューターの)キーボードで手を置く場所が決まっているので、目を瞑っても入力することができるよ。左手で音符を選んで……。
sibeliuski 凄い慣れてますね!
伊東さん そうだね。最後は時間との戦いになることが多いから、どういう風に打ち込むのが一番速くできるか研究したよ(笑)。MIDIキーボードがある場合は、鍵盤で音程を入力して、左手で長さを打ち込む。MIDIキーボードがある環境では絶対に使った方が速いよね。間違いも少ないし。
それとSibeliusは、バージョン6になって内蔵音源のサウンドが良くなったよね。前のバージョンまでは、たくさんの楽器を同時に鳴らすと音がダンゴになってしまう感じがあったんだけど、バージョン6の音源は凄く分離がいい感じがする。デモを作るくらいならこれで十分というか。バンドのメンバーに聴かせて、「このくらいちゃんとした音で演奏してよ」と言いたくなるよ(笑)。
sibeliuski バージョン6から、Sibelius Playerという、より高品位なサンプル・プレーヤーになったんです。
伊東さん だから音が良くなったんだ。でもひとつ要望があって、ドラム・パターンがあるでしょ。あれを簡単に試聴できるようにしてほしい。DAWソフトだと、ドラム・パターンを次々に試聴できるでしょ。ああいう感じで……。
sibeliuski その機能は既にあります! アイデアハブにはオーディション機能があって、アイデアのパターンを押すことで8回までリピートされるんです。
伊東さん え、そんな機能があるの?(笑) うわ、凄い便利。これは知らなかった。
sibeliuski Sibeliusで特に気に入っている機能というと……。
伊東さん マグネティックレイアウトは凄く便利だよね。前は自分で細かくやっていたんだけど、マグネティックレイアウトをオンにしておけば、かなりアバウトに配置しても問題ない。小節の上の段と下の段を少し離しておけば、オブジェクトの衝突を相当賢く直してくれるから。本当、この機能が備わってからかなりラクになった。
sibeliuski 何かSibeliusへのリクエストはありますか?
伊東さん もっとドラムやベースのパターンがたくさん入ってくれると嬉しいかな。今はそういうのを自分で細かく打ち込む時代じゃないし、最近はドラムのソフト音源でも良いのがたくさん出ているじゃない? ああいうのが中に入ってくれるといいよね。最近はPro Toolsも付属のソフト音源とかが充実しているから、その辺りの進化は期待したいね。
sibeliuski そのリクエストは本国に伝えておきます!
伊東さん Sibeliusってイギリスのソフトなんだっけ?
sibeliuski はい、そうです。
伊東さん 家を設計するためのCADソフトもイギリス製が主流みたいなんだけど、あの国で作られたモノって何かアメリカ製とは違う味があるよね。僕は自転車が大好きなんだけど、イギリスやヨーロッパの自転車って、アメリカやカナダ製とはかなり様子が違う。イギリスって伝統のある国だからか、そこで生まれたモノも素朴に進化している感じがするんだよね。アメリカのモノは一気にドンと進化するので、それはそれで魅力的だったりもするんだけど、イギリスのモノは過去を大切にしつつ現代的な要素を取り入れながら着実に進化している感じ。歴史が感じられるんだよね。そういうところがモノとして凄く魅力的なんだよ。Sibeliusにも、他のイギリス製品と同じような感じがあって、使っているうちに愛着が湧いてくる。こんな風に愛着が湧くソフトというのも珍しいよ(笑)。
sibeliuski 最高の褒め言葉、ありがとうございます! 本日はお忙しいなか、ありがとうございました!
伊東たけし ~プロフィール~
1954年3月15日生まれ。福岡県出身。
大学在学中よりソロ・サックス・プレイヤーとして活動する傍ら、学生ビッグバンドに加入し、コンサート・マスターを務める。数々のコンテストに参加し、多くの賞を獲得。
1977年にTHE SQUARE(現T-SQUARE)に加入、1978年にプロデビューを飾る。以来、バンドのフロントマンとして活躍。











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