朗読劇『水の手紙~群読のために~』のサウンドを支えたフルAvidシステム
----------------------------------------------------------------
朗読劇『水の手紙~群読のために~』のサウンドを支えたフルAvidシステム
----------------------------------------------------------------
● すべてのサウンドを担うPro Tools 10とXpand! 2
去る2011年12月17日、東京・杉並のセシオン杉並ホールで開催されたイベント『ユネスコのつどい~水は地球の主役~』。杉並ユネスコ協会創立60周年を記念して企画されたこのイベントでは、関係者とその家族が一同に集い、さまざまな演目を楽しみながら同協会の節目を祝いました。イベントのハイライトとなった『水の手紙~群読のために~』は、井上ひさし作の朗読劇で、舞台や映画で活躍する第一線の俳優が多数出演。公募で集められた地元の人々も、約40名が“群読”として参加し、大成功のうちに幕を閉じました。
そしてこの朗読劇で、音楽・音響を担当したのが音楽家の辻敦尊(つじ・あつたか)氏です。辻氏はシンガーソングライターとして活動するかたわら、映像作品や舞台などの音楽監督も多数手がけ、さらにはJSPA(日本シンセサイザープログラマー協会)の理事も努めるなど、多方面で活躍している音楽家です。実は今回の朗読劇は、辻氏の母上である児童文学作家の辻邦(つじ・くに)氏が企画から関わっており、その関係で辻敦尊氏が作曲家として関わることになりました。
「ぼくはこれまで朗読劇の音楽は手がけたことがなかったんですが、『~水は地球の主役~』というテーマを聞いて引き受けることにしたんです。今年ほど「水」というものの力、その大切さについて、この国に住む人たちが考えた年はないですよね。その「水」を音で表現するというのは、とてもやりがいのある仕事だと思ったんです。だから作曲だけでなく、音響も含め、サウンド面をすべて担当させてもらったんですよ。自分でできることはすべてやりたかった。作曲から演奏、そして音響までを担う舞台は、これが最初で最後かもしれませんね(笑)」(辻氏)
そして辻氏のサウンド・プロダクションの核となっているのが、AvidのPro Toolsシステムです。自宅スタジオでPro Tools|HD Nativeシステムを使用している辻氏は、持ち運び用のサブ・システムでもPro Toolsを活用。こちらはPro Tools 10をインストールしたApple MacBookにM-Audio Venomを接続したシンプルなシステムで、Venomがキーボードとオーディオ・インターフェースの2役を担っています。今回の作業はまず、このモバイルPro Toolsシステムを稽古場に持ち込むところからスタートしました。
「今回は自宅スタジオで作曲するのではなく、白紙の状態で稽古場に行き、俳優さんたちが演じている姿を見ながら曲を作りたいなと思ったんです。即興でキーボードを演奏しながら楽曲のイメージを固めていき、ある程度出来た段階でスタジオに持ち帰って最終形まで仕上げていったんですよ。以前だったら、外で作業をするというのは大変だったんですが、今はPro Toolsとノート型コンピューターがあればどこででも作業ができますからね。そんなときに重宝しているのがVenomで、キーボードとオーディオ・インターフェースが一体となっているので、短時間でセットアップすることができます」(辻氏)
音源は今回、Pro Tools標準のプラグイン・インストゥルメントであるXpand! 2が活躍。ソフト・パッド、ソフト・リード、エスニックといったカテゴリーの中から、辻氏のイメージに合うプリセットが使用されました。
「朗読劇にリッチなサウンドを付けるなら、普通だったら弦楽四重奏だったりブラスを使ったりすると思うんですが、今回は現実には存在しない音ですべてを構成したかったんです。実在する楽器の音や、水や風の音をそのまま使うのではなく、抽象的な音で構成することによって聴き手の想像力に委ねたかったんですよね。
作業に入る前に井上ひさしさんの脚本を読んだんですが、これは現実の話でありながら、読者を非現実の世界に連れていってくれる話だなと思ったんですよ。そういう作品の朗読劇で、ブラスとか水の音とか、イメージの固まった音を使うのは良くないと思ったんです。抽象的な音の方が、聴き手の想像力がかき立てられていいんじゃないかと。 それでどの音源を使おうかなといろいろ試しているときに、たまたま鳴らしたXpand! 2のソフト・パッドの音がもの凄く作品のイメージに合っていたんです。パッドの音なんですけど、本物の音よりも水を感じさせる音というか。これはバッチリだと思って今回はXpand! 2をメインで使用することにしました。
ぼくは割と音源をたくさん使う方で、自分のスタジオには30U分くらいのハードウェア音源があるんですよ(笑)。しかし今回は、最終的に使用したのはXpand! 2だけでしたね。それだけ今回の朗読劇のイメージに合った音でした。そして稽古場での曲作りは、Xpand! 2の音色にインスパイアされる形で進んでいいきましたね」(辻氏)
辻氏は今回、Pro Toolsのオーディオ・トラックを使用せず、MIDIシーケンサーおよびXpand! 2のプレーヤーとしてのみ活用。使用されたインストゥルメント・トラックは15本で、そのすべてにXpand! 2がインサートされました。
「とても珍しい使い方だと思いますが、その分セッション・ファイルは約20MBと軽く、モバイル用のMacBookとメインのMac Proとのファイルのやり取りは非常にラクでした。楽曲はすべて1つのセッション・ファイルにまとめ、シーンごとにマーカーを打ってトランスポートしています。作業してみて、Pro Toolsのオーディオ・トラックを使わない今回のやり方も、とても気に入りましたね」(辻氏)
● M-Audio GSR12とGSR18による2.1chのスピーカー・システムが活躍
そして本番当日、辻氏はPro Toolsシステムをメインとバックアップの2式用意しました。メイン・システムはMac Proをホスト・コンピューターとしたPro Tools|HD Nativeシステムで、インターフェースはHD OMNI、鍵盤はM-Audio Axiom 61を使用。バックアップ・システムは、MacBookにM-Audio Venomを接続したシンプルなセットアップで、両システムともPro Tools 10とXpand! 2が立ち上げられています。
「ぼくは早くからPro Tools|HD Nativeシステムを愛用しているんですが、このシステムはオーディオ・デバイスを意識させないところが素晴らしいですね。具体的には、密度の濃い音質、そして、レーテンシーがほとんど無く、なおかつ動作が非常に安定しているんです。だからハードウェアのことを考えずに作業に集中できる。ぼくはPro Tools以外のソフトウェアを使うときもPro Tools|HD Nativeのデバイスをそのまま使用しているんですけど、本当にトランスペアレントな存在になっています。
それとインターフェースのHD OMNIのモニター・セクションもいいですね。ぼくはモニター・スピーカーを切り替えながら作業するんですけど、そのときもHD OMNIのALTスイッチが活躍しています。
新しいPro Tools 10に関しては、まだそんなに使い込んではいないんですけど、着実に進化したバージョンという印象ですね。派手な新機能は無いんですが、実際に使ってみると“そうそう、これが欲しかったんだよ”という変化があったり。とても実用的なバージョン・アップだと思います」(辻氏) また、コントロール・サーフェースとしては、Artist Controlが活躍。Axiom 61とVenomの操作子と組み合わせて、Pro Toolsの様々な機能をハンズオン・コントロールしています。
「Pro Toolsは、使い慣れればキーボードとマウスだけでも素早く操作できるんですけど、やはりArtist Controlのようなコントロール・サーフェースがあると違いますね。通常、2アクションかかる動作が1回の操作で済みますから。それとArtist Controlは、フェーダーが素晴らしいんです。ぼくはフェーダーにはかなりこだわりがあるんですけど、最近のコントロール・サーフェースの中にはクリック感が強いものも少なくないんですよ。その点、Artist Controlのフェーダーの動きは非常にスムースで、とても操作しやすいですね。
それとM-Audioの2台のキーボードは、鍵盤のタッチが良いので気に入っています。ぼくはキーボーディストではないんですが、ピアノなどの音色を弾くときはやはり少し重い鍵盤がいい。Axiom 61は、ちょうどいい重さのセミ・ウェイテッド鍵盤で、メインのキーボードとして最適です。一方のVenomは、これまでのM-Audioのキーボードとは少し違う軽めのタッチなんですけど、これもとても演奏しやすいですね」(辻氏)
今回の音楽・音響システムは、PAを通さずにPro Toolsから直結スピーカーに接続するという大変ユニークなシステムになっている点も特徴です。もちろん、PAエンジニアもいないため、ミックスはすべて辻氏自身でコントロール。モニター・スピーカーとしては、会場常設のスピーカーは使用せず、辻氏が持ち込んだ2本のM-Audio GSR12と、サブ・ウーファーGSR18を組み合わせた2.1chのシステムが使用されました。
「こういう舞台で一番苦労するのがミックスなんです。具体的には、チェロの音域などはミックスするのがとても難しい。かといって、会場に入ってからミックスし直すのは大変なので、自宅スタジオで愛用しているDSM1と同じM-Audio製のGSR12とGSR18を持ち込んだんです。その結果、ぼくの狙いどおり同じ傾向のサウンドだったので、通常1時間くらいかかるサウンド・チェックが10分くらいで完了しました。
今回、サブ・ウーファーを使用したのは、Xpand! 2で低域が豊かなパッドの音を使用するからです。その量感をそのまま観客の皆さんに届けたかったので、サブ・ウーファーは必須だなと思ったんですよ。DSM1はウーファーが無くても低域が強めのスピーカーなんですけど、やはりサブ・ウーファーがあると違いますね。とても満足のいくサウンドを作ることができました」(辻氏) 大成功のうちに幕を閉じた今回の朗読劇。辻氏は「機会があればまたぜひ手がけたい」と語ります。 「今回、音に関わる部分はすべて自分一人で手がけたので、準備はかなり大変だったんですが、何とかトラブルなく終えることができたのも信頼性の高い機材をチョイスしたからだと思います。中でもAvidの製品は特に信頼性が高いので、使用にあたって何ら不安がない。信頼できる機材をチョイスすれば、演奏やオペレートに集中することができますし、結果も素晴らしいものになるということが改めて実感できましたね」(辻氏)
YouTube: 辻敦尊氏インタビュー 1: 朗読劇の音楽制作・音響システムにAvidを選択
YouTube: 辻敦尊氏インタビュー 2: 朗読劇の音楽制作・音響システムにAvidを選択
YouTube: 辻敦尊氏インタビュー 3: 朗読劇の音楽制作・音響システムにAvidを選択












コメント